【感想レビュー】人妻温泉

『 人妻温泉 』

作品情報

「自分から誘ってくるような人妻はお嫌い？」脱いだ浴衣の下に現れる貴和子の熟れきった女体。白いうなじから漂う色香、細腰から双臀に連なる曲線。服を着れば貞淑な一児の母も湯船では淫らな美獣に！アルバイト先で少年が体験する極楽の年上温泉郷。27歳、35歳、40歳……「堕とし頃」の人妻たち！

基本情報

感想レビュー：人妻描写の濃密さと温泉舞台の新鮮さ

『人妻温泉』は、巽飛呂彦らしい「巽ワールド」の真骨頂が発揮された一作である。道に迷う少年主人公、そしてそこで待ち受ける人妻たちというフォーマットは既視感がありながらも、やはり安心して楽しめる。定番のキャラ配役は、可愛らしくもいやらしい母、ツンデレの娘、女々しさを排したアスリート風の人妻、純真でウブな令嬢タイプの人妻という布陣で、これぞ「巽スターシステム」とすら言いたくなる安定感がある。

温泉という舞台の新しい味付け

特筆すべきは、物語前半に見られる温泉を活かした展開だ。単なる旅先のエロスではなく、癒しや解放と結びついた行為として描かれ、人妻たちにとって夫婦関係を見直すきっかけとなる点が印象的である。主人公の誠実さによって、彼女たちが幸福感を得るくだりには一種の浄化作用のような味わいもある。ネット上でも「官能描写の熱量が以前より濃くなり、生々しくもいやらしい」との声があり、この点は評価が高い。

後半は安定の母娘モノ路線

中盤以降は再び母娘モノに寄せた展開へ戻っていく。奔放で積極的な母は、キャラさえ受け入れられれば淫靡さの中に可愛らしさも宿し、一方でツンデレ娘の初めての変化は「ベタだが甘美」と評されている。ただ、一部では「後半がやや既視感に寄り過ぎ」「母娘モノに頼りすぎ」との指摘もあり、賛否を呼んでいる部分でもある。とはいえ、対照的な二人を通して濃厚な描写が重ねられ、読者を引き込む筆力は健在だという評価も多い。

別れの余韻と惜しさ

主人公の滞在が短期であることから、彼と女性たちとの関係には別れが前提として漂う。ここに切なさを感じた読者も少なくなく、ラストに「もう一歩劇的な演出があれば」と惜しむ声もあった。ただ、その曖昧さこそが巽作品らしい後味を形作っているとの見方もあり、決定的な破局を描かない柔らかい閉じ方はむしろ好ましく映った。

総評

総じて、『人妻温泉』は巽飛呂彦作品の安定感と、新鮮な温泉描写による変化が両立した一冊といえる。マンネリを指摘する声もあるが、好きな読者には安心感しかなく、官能描写の充実ぶりも含めて「結局満足度は高い」と言える一作だった。

4.0

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