【感想レビュー】鳥辺野心中

『 鳥辺野心中 』

感想レビュー

『鳥辺野心中』は京都を舞台に、不倫、母性、女の情念や業を絡めた官能的でどろりとした物語として高く評価されています。花房観音らしい複雑な人間描写と陰鬱な京都の雰囲気が合わさり、読後感は決して爽やかではないものの、その独特の世界観に引き込まれる読者が多いようです。

主人公の新任教師・樋口が、妊娠中の妻がいるにも関わらず元教え子の若い女性と関係を持つという設定は、多くのレビューが指摘するように「女の怖さ」と「男の弱さ」がリアルに描かれていて、現代のスキャンダラスな不倫問題を先取りしたかのような恐ろしさすら感じさせます。特に、樋口と音葉の関係に対し、守ってあげたいけれども執念深く危険な彼女の内面にも惹かれてしまう複雑な心理描写は、多くの読者の共感を呼んでいるようです。

一方で、官能描写はありつつも、過度に際どい表現は避けられており、その点で単なるエロ小説ではない文学性を持つ作品と捉えられています。主人公視点中心の構成が特徴で、女性目線による多視点連作短編が多い花房観音の他作品に比べると異色ですが、違和感なく物語に没入できるとの声が多いです。また京都の地名や風習が細かく織り込まれており、読んでいるだけで洛東の街を歩いているかのような趣深さも備えています。

ただ、全体に暗めで湿度の高い物語展開のため、「女の情念は怖いがスラスラ読める」「読み終わった後にハツラツとしない」といった感想も散見され、物語の重さが苦手な読者にはやや不評な部分もある模様です。ですが、この作品ならではのゾッとする恐怖と官能が融合した独特の魅力に惹かれる読者が多く、著者のファンや京都のローカルな背景を楽しみたい人には特におすすめできるでしょう。

まとめると、『鳥辺野心中』は京都という土地柄と「女の業」を深く掘り下げつつ、不倫を軸にしたヒューマンドラマと官能小説の要素が絶妙に混ざり合い、心の闇を描いた傑作と評価されています。舞台描写のリアリティと心理描写の繊細さ、そして背筋を凍らせるような緊迫感が魅力で、賛否はあれどリピート読書や複数回読み直す価値のある作品だと言えます。

3.8

作品情報

「この坂で転ぶと三年以内に死にます」京都東山・三年坂の言い伝えが現実のものに。樋口が女子校の教師になって二年目の夏、教え子・音葉の母親が自殺する。このとき放った一言、そして5年後の再会により、樋口の人生は音も立てずに崩れていく。男のずるさ、女のこわさ、エゴイズムを描き切り、生と死をあぶり出す衝撃作！

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